私はお酒に弱い。
一口で顔が真っ赤になってしまう。
なのにどうしたことか酒造に嫁いだ。

思い返せば私の周りには小さい頃からお酒がいっぱいだった。
というのも実家は親族で酒類全般の卸問屋をやっていたからだ。

日本酒、焼酎、ビール、ワイン、シャンペン、ウィスキー、ブランデー・・・なんでもあった。

なのにお酒が飲めない私は、レッテルのデザインやボトルの美しさにばかりうっとりしていた。
お酒好きが聞いたら勿体無い話である。

唯一私が飲める「酒」があった。
それが甘酒だ。

これだけは色んな日本酒の銘柄の酒粕を使って作り、寒い冬には美味しくいただいていた。

酒粕には、タンパク質や脂肪の分解を促すビタミンB6が豊富だ。
また気分を改善するアミノ酸の一種、Sアデノシルメチオニンや、食物繊維と似た働きをするレジスタントプロテインも含まれている。このプロテインは、腸で余分な脂を吸着して排便を促す。

酒粕はとてもお利口さんなのだ。

甘さ控えめにして作り、米粒を噛みながら飲むと身体も温まって、本当に幸せな気分になる。

酒粕は古くは奈良時代の文献に登場する。
万葉集で、山上憶良も歌に詠んでいる。
今と同じく湯に溶いて寒さをしのいでいたらしい。

甘酒はまた、夏の季語でもある。
夏バテに効く栄養素がたっぷりで、江戸時代には冷えた甘酒を売り歩いていた。
飲む点滴と言われるゆえんだ。

話を最初に戻すと、酒造に嫁いでよかったな、と思うことは、搾りたての酒粕で甘酒が飲めることだ。

特に純米吟醸粕は、お米の粒々がきらきらして、美味この上ない。

実はこの文章を書いている今も甘酒を飲んでいる。

この季節になると毎日甘酒を作っては、嗚呼、日本人でヨカッタ、と思うのだ。