秋もすっかり深まってきました。夏にはベタベタとしていた肌も、これからは乾燥していきますね。今回は、皮脂バランスをととのえるゼラニウムの精油を使ったクリームを作ります。

園芸の品種としてよく知られているゼラニウムは、フウロソウ科(Geraniaceae)の植物です。一般的な呼称「ゼラニウム」は属名「Geranium(フウロソウ属)」のことで、このゼラニウムは植物の分類でいうとフウロソウ科フウロソウ属です。

アロマテラピーで使用するゼラニウムの学名は「Pelargonium graveolens」です。Pelargoniumはフウロソウ科テンジクアオイ属で、学名を知ると先述のゼラニウム(Geranium)とは異なる種類だということがわかります。

Geraniumはギリシャ語で「鶴のくちばし」という意味の「geranos」が語源です。一方のPelargoniumは、ギリシア語でコウノトリを意味する「pelargos」が語源となっています。

両方とも花の形が鳥のくちばしに似ているためですが、鳥の種類が違うのがおもしろいです。鶴とコウノトリって似ているのか、似ていないのか全然知りませんが(笑)。

アロマテラピーの精油で使用しているゼラニウム(Pelargonium graveolens)の種小名graveolensは「重くきつい匂いのする」という意味です。また、和名は「ニオイテンジクアオイ」で、化粧品などの原料名ではニオイテンジクアオイ油と表記されていることもあります。

こうして見ていくと、植物の呼び方には学名、和名、英語名、一般的な呼び方などいろいろあって、時にややこしいと感じてしまいます。私のアロマテラピーの先生が外国のハーバリストと話したときに「ゼラニウム(geranium)と言っても通じなくて、学名のPelargoniumを使ったら通じた」と話していたことを思い出しました。

こうした呼び方については精油やハーブの売られ方にも表れていて、たとえばハーブのカレンデュラ(学名はCalendura officinalis)を、園芸品種として知られている「マリーゴールド」という商品名で売っている店もあります。園芸品種のマリーゴールドは食用ではないのですが、専門店でさえそんなことがあります。

さて、アロマテラピーで使用するゼラニウムの精油は、ゼラニウムの花と葉から水蒸気蒸留法で採取されます。園芸用のゼラニウムを育てたことがある方はご存知と思いますが、花よりも葉のほうが香りがあります。精油の香りは、やさしげな見た目を裏切る濃厚なフローラル調で、ローズと似ていることから「貧乏人のローズ」という、なんとも気の毒な呼び名が付いています。

香りの特徴を構成しているゲラニオールとシトロネロールいう成分は、ローズやシトロネラにも含まれています。蚊よけとしてよく知られているシトロネラですが、ゼラニウムにもまた同様の作用があります。

ゼラニウムは水分バランスや皮脂バランスをととのえるのに優れていて、スキンケアに適した精油です。水分調整ではむくみに。脚のむくみ解消に効果的なジュニパーは、刺激が強いためフェイスケアには不向きですが、ゼラニウムであればフェイスのオイルトリートメントにも安心して使えます。また、皮脂バランスが崩れてオイリーになったり、逆に乾燥したりしたときにもお肌の調子をととのえてくれます。前回の記事で紹介したティートリーとゼラニウムのローションは、最初はさっぱり、後からしっとりとする使い心地です。

今回は、ハーブのマセレイテッドオイルをベースに、ミツロウとシアバターを使って、なめらかでトロリとしたテクスチャーのクリームを作ります。ベースとなるマセレイテッドオイルは、植物油にハーブを入れて加熱することでハーブの有効成分を引き出したオイルです。これから乾燥しやすくなるお肌のケアにゼラニウムを利用します。

◎ マセレイテッドオイルのレシピ

材料(仕上がりおよそ35ml分)

ローズのハーブ 4g
オレンジフラワー*のハーブ 1g
ホホバオイル 50ml

*オレンジフラワーがなければ、ローズ5gでもOK

① ハーブをミル(なければすり鉢など)で細かく粉砕する
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② 粉砕したハーブにホホバオイルを注ぐ。ハーブが完全に浸かるようオイルの量を調整する
③ ②にアルミホイルで軽くフタをし、オイルが沸騰しないように時々日を消すなどして注意しながら30分湯煎にかける
④ 火から下ろして、コーヒーフィルターで漉す
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⑤ 粗熱が取れたら、最後に残ったハーブも絞ってオイルを残さずに取り出す
⑥ 保存用容器に移す。保存期間は冷暗所で3ヶ月

作ってみると、ローズとオレンジフラワーの香りが想像と違うだろうと思います。期待していたお花の香りというよりは香ばしさが主張する香りで、好き嫌いが分かれるかもしれません。

マセレイテッドオイルにゼラニウムの精油を加えたトリートメントオイルを作るのもいいですね。

◎ クリームのレシピ

マセレイテッドオイル 30ml
ミツロウ 3g
シアバター 3g
ゼラニウム精油 1滴
ベルガモット精油 1滴
フランキンセンス精油 1滴
あればハーブチンキ 小さじ1/4

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① マセレイテッドオイルにミツロウとシアバターを入れ、湯煎にかける
② ミツロウとシアバターが完全に溶けたら、湯煎から下ろし、ハーブチンキが分離しないように少しずつ加える
③ 精油を加えてよく混ぜ、保存用容器に移す。保存期間は3ヶ月

雑菌の繁殖を防ぐため、スパチュラなどで適量を手に取って使いましょう。このクリームは、作りたてよりも4〜5日くらい置いてからのほうが全体がなじんで精油の香りも感じられるようになります。こっくりとしたテクスチャーですが、肌になじむとしっとりしてイヤなべたつきもありません。

ベルガモットは、紫外線に反応して炎症を引き起こす成分を排除した「ベルガプテンフリー」「フロクマリンフリー」などと表示されているものを使うことをオススメします。

今回はマセレイテッドオイルを使いましたが、作るのが大変な場合は植物オイルでももちろんOKです。ホホバオイル、アーモンドオイル、マカデミアナッツがオススメです。

【参考文献】
『ビジュアルガイド 精油の化学』長島 司(著)フレグランスジャーナル社(刊)
『ハーブ学名語源辞典』大槻真一郎・尾崎由紀子(著)東京堂出版(刊)
『ヴィジュアル版 植物ラテン語辞典』ロレイン・ハリソン(著)上原ゆうこ(訳)原書房(刊)