学生の頃、長い休みを利用して奈良、京都をぶらぶら旅していた。
最近よくその時のことを思い出す。
特に奈良。
京都は何度か足を運んでいるので、好きなのは言わずもがなだけれど、奈良を堪能したのは修学旅行以外を除いてその一度きりだったからだろうか。とても印象に残っている。
青春18きっぷで行ったので、奈良までは11時間かかった。飛行機でニューヨークに行けちゃう時間だ。
旅先でお金がなくなると、実家に「アタシ、アタシ」と電話して口座にお金を振り込んでもらいながら旅をした。時代を先取りしていた(笑)
奈良と京都ではだいぶ趣きが違う。奈良はおおらかな古の都、京都は華麗な王朝文化の都といった感じだろうか。
最近、なぜか「奈良に行きたいなぁ〜」と思うのは、あのおおらかな万葉の空気が懐かしく、癒された記憶があるからかもしれない。
基本的にビンボー旅行だったので、お寺の僧房や門前の民宿に写経やお手伝いをしながら泊まった。
奈良では新薬師寺、法隆寺の目の前の民宿、明日香村の民宿にお世話になった。
新薬師寺では、棟を隔てて十二神将がいると思うと興奮して寝つけなかった。
民宿では、一人旅の元社会の先生やら、自称研究家やらと襖一枚隔てて寝ていた。
夏休みだったので、奈良は思いのほか暑かった。盆地だからね。
移動はレンタサイクルが基本。首にお寺で借りた水道で濡らしたタオルを巻いて、タンクトップと膝上スパッツ、リュックというかなりラフな格好でいろいろなところをまわった。
甘樫丘に登って大和三山を仁王立ちで見下ろして、「大王(おおきみ)気分」を味わったりもした。
石舞台古墳をはじめとする謎の奇岩遺跡もワクワクしながら巡った。私の雑誌購読黒歴史、「ムー」にも出てきた古代史ミステリーに興奮しながら遺跡をまわるのはすごく楽しかった。
今のようにあまり整備されていない藪の中に謎の奇岩。触るとヒンヤリして気持ちが良かった。古代史の幻影を見るような気がしてクラクラしたのを憶えている。
寺社仏閣も好きなので、飛鳥寺から、時代を遡りつつ見学した。
中学生の頃読んだ、梅原猛の「隠された十字架」や、漫画「日出処の天子」などに出てくる法隆寺をはじめとするお寺群も隅々まで見た。至福の時間だった。
奈良で一目惚れしたのは、中宮寺の弥勒半跏思惟像、興福寺の阿修羅像、法隆寺の百済観音だ。どれも佇まいが美しく、身体のラインが綺麗で、息遣いが聞こえてきそうだった。
あをによし、奈良。
おおらかで包容力のある美しいところだった。
旅のシメは猿沢の池で、亀を見ながらぼーっと半日過ごした。
今思うと、自由旅ってああいうことだと思う。
学生を卒業してからは、働くことに忙しく、30代になってからは、子育てと大病で心の余裕も身体的余裕もがなかったように思う。
40代半ばになって、また、一人でふらふら旅をしてみたいなと思うようになった。
そろそろ仏像ギレ、寺社仏閣ギレなのだ。
タイミングを伺いつつ旅の計画だけが頭で空回っている。
「大和は国のまほろば たたなづく青垣 山籠れる 大和し うるはし」
古事記より