熱伝導の良さと仕上がりの美しさ。
憧れのシェル型マドレーヌ

子どもの頃、母はよく手作りのおやつを作ってくれました。
中でもマドレーヌの美味しかったこと!

当時、片田舎の伊勢市には発酵バターもドルチェやクーヘン(どちらも製菓用の北海道産薄力粉)も売っているはずも無く、おそらく「ぎゅーとら」(伊勢市民御用達)に置いてあった一般的な材料しか使っていないはずですが、至高のおやつとして記憶に残っています。
お店の味よりも美味しく忘れ難く感じる理由の一つはやはり手作りの醍醐味、
「作り立て」と思います。オーブン前で焼き上がりを、秒数を数えながら待つ高揚感!
1日経って粉やバターが渾然一体しっとりとまとまったのも良いですが、
子どもに恩を着せたいなら断然作り立てですね!

さて、そんな大好きマドレーヌでしたが一つだけ不満がありました。
「なぜ、うちのマドレーヌはアルミカップなのだろう…」
昔から、お菓子作りの本が大好きで作らなくても何度も読み返してはうっとりため息をついていた私。
シェル型のマドレーヌは憧れの的でした。いつかシェル型マドレーヌを焼きたい。
最近子どもがお菓子を作りたがるようになり、忘れていた思いが再燃しました。

「ケーキを焼くということは、オーブンの熱を型を通して生地に伝え、水分を蒸発乾燥させることです。
金属にこだわった型で熱の伝わりが非常に良いため、焼き上がりの差は歴然。」
これはメーカーの商品詳細文です。
エッジの効いた貝フォルムが身上のマドレーヌ。個人的思い込みが強すぎる気もしますが、
その実現にはやはりシリコン型では役不足と判定しました。

レシピは久保田由希さん。『LE CAFE DU BONBON』を取材時にレシピ本に魅かれ、
すでに絶版でしたが在庫を購入できました。
お菓子は、一度著者とレシピを決めたら浮気せず、同じ材料で何度も作ります。
そうすると著者がこのレシピで何を表現したかったのか、電撃的にひらめく瞬間がやってきます。
それはそれは幸せな瞬間です。

日々追われる現実的な食事作りに対し、空想や夢の体現がお菓子作り。
子ども達の前に焼きたてのマドレーヌを置いた瞬間の反応は!

わあ、美味しそう!美味しい!

シェ…シェルだよ?シェルなんだよ?ほら、ほたて貝!

そこは無反応。
夢はそれぞれですね。
与えない贅沢もあると知った昼下がりでした。