「まんなか」世代のみなさんこんにちは。
先日、妻が鎌倉のギャラリーに友人の作品を観に行くというので同行しました。
鎌倉はひそかに移住(もちろん単身で!)を目論んでいる街。
ギャラリーの経営者は鎌倉住民だというし、あれこれ地元の話を聞いておくのも悪くないと考え同行したのです。
ひさしぶりの鎌倉は、相変わらず観光客でごった返していましたが、「レンバイ」の愛称で親しまれている鎌倉市農協連即売所に足を向ければ、みずみずしい鎌倉野菜が並び、「こんなところで毎日買い物できたらなぁ」とうっとりし、小町通りの喧騒から一歩脇道へと足を踏み入れれば、東京のカフェ文化に多大な影響を与えた老舗カフェがいまも静かに佇んでいて、
「あぁ毎朝ここのコーヒーで一日をスタートできたらなぁ」と遠い目をするのでした。
それと今回感じたのはお年寄りが多いことですね。
鎌倉駅そばの東急ストアなんかで買い物をすませたお年寄りたちがみなさん買い物カートを引きながら歩いて家へと帰っていく。
この街のスケール感がいいなぁと思いました。
日々の食を担うお店や文化の発信基地であるカフェやショップが徒歩でアクセスできる範囲に収まっているというのは素晴らしいことです。
京都も博多もフィレンツェも、魅力的な街はきまって徒歩圏内にすべてが収まっています。
さて、鎌倉での用をすませて昼食をどうしようかという話になり、茅ヶ崎にある熊澤酒造へと足を伸ばすことにしました。
熊澤酒造、ご存知ですか?
明治5年創業の熊澤酒造は、「よっぱらいは日本を豊かにする」というナイスな社是を掲げる湘南地域に唯一残った酒蔵です。
全国にその名を知られるきっかけとなったのは、6代目蔵元の熊澤茂吉さんが、杜氏の五十嵐哲朗さん(1973年生まれのまんなか世代)とともに「天青(てんせい)」というお酒を生み出したこと。
中国の故事に由来し「雨上がりの空の青」を意味する「天青」を冠しただけあって、晴れ渡った湘南の空をイメージさせる爽快感と米の旨みを感じさせるお酒で、発表されるやいなやまたたくまに人気の酒となりました。
近年、日本酒の世界ではものすごく美味しい酒が続々と生まれています。
味もシュワシュワと泡立つ爽快なものから、甘酸っぱく飲み応えのあるもの、どっしりと旨みを感じさせるものなどさまざま。
食前・食中・食後を優に日本酒一本でまかなえるだけの種類があるのはもちろん、和食だけでなく、フレンチやイタリアンにもよくあう日本酒がたくさんあります。
しかも若く才能あふれる造り手たちも続々と全国に現れています。
なかには秋田の新政酒造の佐藤裕輔さんのように、東京大学を卒業後、ジャーナリストを経て家業を継いだという変り種ながら、固定観念にとらわれないセンスあふれる日本酒を次々と生み出し、いまでは女子の追っかけまでいるほどのスターになった人も。
ちなみにぼくが今年の最初にお店で飲んだのは、新政が元旦にしぼったお酒で、ラベルはフィリップ・K・ディックのSF小説『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』の表紙をもじったものでした。
こういうところひとつとってもセンスの良さを感じさせます。
「端麗辛口」という昔流行ったコピーが秀逸だったせいで、いまでも日本酒といえば辛口を注文する人が多いですが、実は日本酒に思い入れのあるお店の人間ほど「ああまたか・・・・」と残念に思っているんですよ。
それぐらいいまは多種多様な日本酒がつくられているし、新世代の造り手たちの台頭ぶりからしても、おそらく史上最高のクオリティで日本酒が飲める時代じゃないでしょうか。
そのあたりのガイドブックとしては、山同敦子さんの『めざせ!日本酒の達人―新時代の味と出会う』(ちくま新書)がいちばんのおススメです。
さて、熊澤酒造に話を戻すと、「天青」でブレイクした後は「湘南ビール」というクラフトビールの醸造も手がけるなど、すっかり関東を代表する酒蔵へと成長し、近年では、敷地内にレストランやカフェ、ギャラリーを併設するなどして、酒蔵そのものにも多くの人を集めていると聞いていました。
特に12月は新酒の季節ですから、タイミングさえあえば、その日の朝しぼったばかりの「天青」を味わうことができるとか。
ちょっと気の利いた品揃えの居酒屋に行けば「天青」は置いてありますが、しぼりたてとなるとそうそう飲める機会はありません。
そんなことからちょっと足を伸ばしてみようかという話になったのです。
初めて訪れた熊澤酒造は、茅ヶ崎市と行っても海のそばではなく、かなり内側に入ったところにありました。
どんなに広大な敷地かと思いきや、住宅街の中に忽然と姿を現すので驚きます。
そういえば、国産ワイナリーの名門・小布施ワイナリーを訪れたときも、さんざん迷ったあげく「まさかここにはないだろう」と足を踏み入れた住宅街の一角にあったことを思い出しました。
敷地内には日本酒とビールの醸造スペースのほか、
古民家を移築したイタリアンレストラン「TORATTORIA MOKICHI」や
(茂吉は蔵元の名前。代々、襲名しているようです)
蔵を改築した和食店「蔵元料理 天青」、ベーカリーやカフェなどがありたくさんの人で賑わっていました。
もちろんいずれの食事処でも天青や湘南ビールなどが楽しめます。
ユニークだったのは「gallely & shop okeba」。
酒樽などを修理する「桶場」と呼ばれる工房を改築してギャラリーにしたもので、都心ではまず考えられないような贅沢な空間が広がっていました。
都心からは通勤圏内とはいえ、ここ茅ヶ崎あたりまで来ると、
空の高さや広さといった抜け感が明らかに都心とは違います。
しかも周辺は観光地でもなく、ごく普通の住宅街。
そこにこんなにも多くの人がわざわざ足を運んでいるというのは驚きです。
湘南といえば、雑誌の特集でもたびたび取り上げられるエリアですが、海辺のカフェだけじゃなく、熊澤酒造のような場所もあるのだということをぜひ知っていただきたい。
次の週末、湘南にただひとつ残る酒蔵をぜひあなたも訪れてみては?
熊澤酒造 http://www.kumazawa.jp/
〒253-0082 神奈川県茅ヶ崎市香川7-10-7