前回は、精油の化学成分について簡単に紹介しました。情報ではなく、香りそのものを楽しむことがアロマテラピーの本質だと思いますが、化学成分という違った観点を知ることもアロマテラピーを幅広く楽しむのに一役買ってくれます。

前回に引き続き、化学成分の話を続けます。と言っても、難しい話ではなく精油の香りを嗅いだり、ブレンドしたりしながら、香りと化学成分の関係を探ってみようという遊びの実験をやってみました。

内容をご紹介する前に1つお願いを。みなさんはこの実験を行わないでください。精油は適切な量や濃度で使用する必要がありますが、この試みでは適切な量を超えている可能性があります。いくらいい香りでも、高濃度な精油成分がある環境に長時間いると気分が悪くなります。実際、私も結構キツかったので窓を開けっ放したり、こまめに水を飲んだりしながら行いました(苦笑)。

それでは、実際に行ったことです。まず、この実験で使ったのは、ミカン科に属するオレンジスイート、グレープフルーツ、ネロリ、プチグレン、ベルガモット、ライム、レモンの7種類です。それぞれの香りを観察し、香りの傾向でグループ分けして、最後に成分を調べます。

最初は、1つずつムエットに垂らして、さっと香りを嗅ぎます。「甘い」とか「フレッシュ」など、簡単に第一印象をメモしていきます。私が感じた印象は下記のとおりですが、香りの感じ方は人それぞれですし、同じ人でもその日の体調などによっても変わるかもしれません。

・オレンジスイート:甘い
・グレープフルーツ:甘い、オレンジスイートと近い
・ネロリ:柑橘というよりも花
・プチグレン:柑橘というよりも土、ネロリと近い
・ベルガモット:酸味が最初、次に独特の柔和な香りとあとから甘さが顔を出す
・ライム:はじけるような柑橘、サイダーを思い出す
・レモン:甘さとわずかにグリーンな印象

次に、香りの傾向をグループ分けします。私の感覚では、次のようなグループ分けになりました。

・甘い香りのグループ:オレンジスイート、グレープフルーツ、レモン
・グリーンな印象を持つグループ:ベルガモット、ライム、レモン
・柑橘っぽくない香りのグループ:ネロリ、プチグレン

レモンは「甘い」と「グリーン」の両方に該当しました。そして、2時間ほどしてから、もう一度香りを嗅ぎ、香りの変化を観察します。

・オレンジスイート:香りがほぼ飛んでいる、わずかに残っているのはモッタリとした甘さ
・グレープフルーツ:甘さよりも苦みのある香りが強く感じられる
・ネロリ:シトラス感ゼロ。あまり変化していない
・プチグレン:こちらもシトラス感ゼロで、あまり変化していない
・ベルガモット:シトラス、フローラル、グリーンがなじんだバランスのよさが感じられるようになった
・ライム:フレッシュ感が残りながらも少しグリーンな印象が感じられるようになった
・レモン:オレンジのような甘さが目立つようになった

ここまで観察したら、『ビジュアルガイド 精油の化学』(長島 司・著、フレグランスジャーナル社・刊)を参考に答え合わせです。この本には、精油が持っている化学成分が円グラフで視覚的に示されており、化学成分の解説が記載されています。この本には、今回使用した7種類の精油のプロフィールも記載されています。そこで、各プロフィールから共通点や違いに着目してみました。

薄いシトラスの香りを持つ「リモネン」が多い順は、オレンジスイート(94%)、グレープフルーツ(91%)、レモンは(65%)、ライム(47%)、ベルガモット(40%)、ネロリ(13%)、プチグレン(1%)でした。この成分は揮発性が高く、時間の経過と共に香りが失われていくため、最初は似通っていたオレンジスイートとグレープフルーツも、あとからはグレープフルーツはヌートカトン(グレープフルーツの特徴成分)の苦みのある香りが際立つように変化していったのだろうかと推測します。

レモンらしさを演出しているのは「シトラール」です。レモン、グレープフルーツ、オレンジスイート、ベルガモットにわずかに含まれています。割合は1%か1%未満ですが、このおかげで柑橘らしい香りになっているのでしょう。

レモンに含まれるα-ピネンとβ-ピネンは針葉樹を思わせる香りです。レモンが、オレンジスイートとグレープフルーツの「甘い香りのグループ」と「グリーンな印象を持つグループ」の両方に当てはまるのはこの成分のためかもしれません。β-ピネンはライム(11%)、プチグレン(4%)、ネロリ(3%)にも含まれています。

ネロリとプチグレンは抽出部位が異なりますが、共に同じビターオレンジから採れる精油です。シトラスらしい香りよりもむしろ花や根っこの香りが際立ちます。ネロリはグリーンフローラルな香りですが、フローラルさを出しているのは「シトロネロール」という特徴成分です。

ネロリもプチグレンも、ラベンダーなど多くの精油が持つ「酢酸リナリル」と「リナロール」を含んでいる点が共通しています。元々は同じ植物から採れる精油なので、成分プロフィールに共通点が多いのは当然ですね。酢酸リナリルは、プチグレン(60%)、ベルガモット(36%)、ネロリ(4%)に含まれています。また、リナロールは、ネロリ(29%)、プチグレン(18%)、ベルガモット(9%)、オレンジスイートとグレープフルーツ(1%)に含まれています。リナロールは、フルーティなニュアンスを持つ成分です。ベルガモットには酢酸リナリルとリナロールを含んでいるため、フレッシュさの中にも気持ちが落ち着く香りになっています。

前回の記事でもご紹介したように、成分が割合と香りの特徴づけが直結するわけではなく、ヌートカトンやシトラールのような特徴成分が大きく影響しています。

精油の成分プロフィールや成分の性質を知ることで、「どのように香らせたいか(揮発速度=ノート)」や「成分同士の相性や相乗効果」を考えてブレンドするのに役立つでしょう。

さて、実験はこのくらいにしましょう。今回の試みから、オードトワレのブレンドレシピ2種を考えました。

オードトワレのレシピ

無水エタノール 2.5ml(小さじ1/2)
精油 4〜5滴

ビーカーに無水エタノールを計量して入れ、ガラス瓶(できれば遮光瓶)に移します。その中に精油を滴下します。水で希釈せずにアルコールを使うので、ガラス製のビンを使うほうがよいでしょう。

ブレンドレシピ

[ライム+ラベンダーのブレンド]
第一印象は、ライムのフレッシュな香り。時間が経つごとに優しく落ち着いたフローラルな香りが出てくるブレンドです。
ライム2滴、ラベンダー2滴。

[ネロリもどきのブレンド]
ネロリと同じ香りにはできませんが、グリーンフローラルを感じるブレンドです。
プチグレン、レモン、ゼラニウム、ブラックペッパー、ラベンダー各1滴

作ったらすぐに使えますが、時間の経過と共に変化する香りを楽しんでみてください。1日1回、軽く振ってなじませてください。アルコールに敏感な方は、代わりにホホバオイルを使うと肌にやさしいオードトワレになります。